Room of The BOOKS

もともと私は、どちらかといえば本嫌いでした。中学、高校のときなどは、読書感想文を書くための本を読むことすら面倒で、結局、いかなる本も読まず、人の伝聞だけで内容を聞き、感想文を書いたことさえあります。それほどまでに本との距離があった私ですが、20歳になったあたりから、少しづつ、文庫本を手に取るようになりました。
当初、私が好んで読んだのは、翻訳物のSF小説でした。翻訳された文章は、概してセンテンスが長く、読みやすいものではないと思いますが、豊富なイマジネーションや、科学知識に裏打ちされた物語は、活字嫌いの私でさえも夢中にさせました。その後は同じ翻訳物の冒険小説に移行し、やがては、日本の作家が書いた作品へと移ってきました。ココでは、本嫌いだった私だからこそできる、ベスト本の紹介や、ブックレビューなどを記していきたいと思っています。

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TRY

T.R.Y(トライ)

時は明治四十四年、ところは上海…。
この街で暗躍する名うての日本人詐欺師「伊沢修」は、チーメイと呼ばれる謎の暗殺集団に、命を狙われていた。そんな彼に、救いの手を差し伸べたのが、中国革命同盟会の幹部「関虎飛」(グァン・フーフェイ)だった。
グァンは、暗殺を思いとどまるようチーメイに話をつけてやる、と、伊沢に持ちかける。そのかわりに、詐欺師としての手腕を生かし、日本軍将校から大量の武器を騙し取るよう、伊沢に要請する。グァンは、革命を起こすための武器を必要としていたのだ。
伊沢は、グァンの頼みを聞き入れ、詐欺師仲間を集めると、日本陸軍中将「東正信」に狙いを定め、一大ペテン作戦を決行する。そんな彼らのまえに、あらゆる困難が立ちはだかるのだが…。
この小説は、辛亥革命前夜の清国(中国)と日本を舞台に、詐欺師である伊沢修が、八面六臂の活躍をする物語である。ダマしの場面はスリリングでありながら、思わずニヤリとさせられる。ストーリーも二転三転し、最後まで読み手を飽きさせない。まさにエンターテインメント小説の傑作といっていい。
本作品は娯楽性を追求した小説ではあるが、それでも、書き手の心情や思想が深く反映していると思われる場面がある。グァンの語る革命の理念や、伊沢が、上海に建つ豪奢な欧風建築物を眺めて吐く言葉に、それらが現われている。どうやら、本作品の作者は、大陸への深い愛情とシンパシーの念をもっているように思われる。私も、いくらか同じ思いを抱いている。ゆえに、このT.R.Yを、本コーナーで紹介させていただく作品に選んだ。
ちなみに、このT.R.Yは映画化されているが、小説のような高い評価は与えられない出来となっている。

 

血と骨

地と骨

日本が朝鮮半島を植民地として支配していた昭和初期、堂々たる体躯の男が、チェジュ島から大阪にやってきた。男の名は金俊平。腕のいい蒲鉾職人でありながら、あまりの粗暴さゆえに、誰もが恐れる存在である。物語は、この金俊平の流血と波瀾に満ちた半生の軌跡である。
本作品を読んで、主人公「金俊平」に感情移入する読者は、おそらくいないだろう。それほどまでに、金俊平の暴力はすさまじく、常軌を逸している。だが、欲望むき出しで生きている彼に、密かな羨望も禁じ得ない。たったひとりで、荒くれ者の集団をなぎ倒す金俊平の圧倒的な腕力に、どこか、痛快さも感じてしまうのだ。彼の生き方には、躊躇も、抑制も、配慮も、規範も、なにもないのだ。ただ、己があるのみなのだ。
劇中、金俊平の心理描写は極めて少ない。かわりに、彼の友人である高信義や、妻の英姫に、人間らしい描写を多数ちりばめている。読者は、これらの、いわば「普通の人」の目を通して、金俊平を傍観するというかたちになる。そして、金俊平が何物かを考えさせられる。この怪異なキャラクターはどうして形成されたのか…。なにが、彼をこのような人間にしたのか…。それは、人の心の暗部や、当時の社会背景とも繋がってくる命題だと思う。
本作品は、暴力だけでなく、活気と猥雑さに溢れた朝鮮長家の様子や、性についても、ビビットに活写されている。非常に刺激的な内容なので、読む時は覚悟(?)をきめたほうがいいかもしれない。

著者/粱石日(ヤン・ソギル) 出版社/幻冬社

 

日露戦争がよくわかる本

日露戦争がよくわかる本

今年2005年は、日露戦争戦勝百周年となる。こうした記念すべき年ということもあるのか、ここ最近、日露戦争に関連する書物の出版が多いように思う。本書は、昨年出版されたものだが、この戦争を知る非常にわかりやすいガイドブックだ。
現在の視点から考えれば、維新断行後四十年も経っていない新興国「日本」が、国力十倍のロシアに戦争を挑むなど、暴挙としか思えない。しかし、当時の日本の指導者たちは、じつに、したたかに、この戦争を指導していた。まず、開戦前から、戦争集結の折には和平仲介の労をアメリカにとってもらおうと、緻密な外交戦術を展開している。また、巧みな世論誘導や、海外での戦費調達にも成功している。そして、多大の犠牲を払った旅順攻略をはじめ、バルチック艦隊を迎え撃った日本海会戦など、重要な戦闘でも勝利を収めている。まさに、政治、経済、軍事が、踵を接して、国難を乗り切ったといっていい。
この戦争を有利な状況で集結させたことにより、日本は、晴れて欧米列強国と肩を並べる存在となり、国家として、ひとつの完成状態を迎えたといってもいいだろう。
国難とはいかに乗り切るべきか…。危機管理とはどうあるべきなのか…。明治の指導者たちから、我々現代人は、まだまだ多くを学ばなければいけないようだ。

著者/太平洋戦争研究会  出版社/PHP文庫

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◇砂漠の惑星。

砂漠の惑星

私が初めて読んだSF小説です。もっとも、この作品はSFビギナー向けではなかったかもしれません。ただ、未知の惑星を探査するという物語は、とてもワクワクするものでした。このしばらくの後、同じスタニスワフ・レムの「ソラリスの陽のもとに」「エデン」を読破しました。

◇星を継ぐもの。

星を継ぐもの

SF小説の中で、心に残る作品といえば、なんといっても、J・P・ホーガンのコレです。ひとつのナゾが解けるたびに、さらにナゾが深まる、という展開は、読み手を惹き付けて離しません。このあと、続編の「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」を読みましたが、いまだに「内なる世界」は読んでいません。いつか時間を作って読みたいです。

◇ジャッカルの日

ジャッカルの日

手に汗握る小説、といえば、この「ジャッカルの日」ですね。史実とフィクションが交錯し、どこまでが現実の出来事で、どこまでが架空の物語なのか、わからないほどです。それでいて、息をもつかせない展開。国籍不明の謎のスナイパー「ジャッカル」に肉薄するルベル警視の手腕に、読み手も熱くなってしまいます。

◇鷲は舞い降りた。

鷲は舞い降りた

ジャック・ヒギンズの代表作です。こちらも「ジャッカルの日」のように、史実とフィクションを織り交ぜたリアリティ溢れる物語となっていますが、本作の最大の魅力は、クルト・シュタイナ以下、登場するキャラクターたちです。まさに、冒険小説の金字塔といってもいい逸品ですが、続編の「鷲は舞い上がった」は、いまひとつでした。

◇マークスの山

マークスの山

高村薫渾身の警察小説です。文章は読みにくく、取っ付きの悪い小説ですが、読み進めるうちに、合田刑事と、彼を取り巻く荒涼とした世界に、どっぷりと浸ることとなります。北岳で迎えるラストはまさに圧巻!。感動とは違う、ずしりとした読後感があり、それはいつまでも胸に残っています。

◇理由

理由

宮部みゆきは大好きなので、どれをフェイバレットに選ぶか悩んだのですが、直木賞受賞のコレにしました(火車にしようか迷ったのですが…)。宮部の得意な少年描写は、この作品でも遺憾なく発揮されています。事件に関わるさまざまな人の描写も、秀逸ですね。

 

To be continued

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